某専門学校で20年近くデザインの領域で授業を担当していました。中でも照明デザインの授業は、照明器具のデザインをするものだと誤解している学生が殆どで、この既成概念を覆すのに苦労したことを今でも思い出します。照明デザインは、あかりのしつらえをデザインすることで空間デザインの一部と私は考えています。

最初の授業のオリエンテーションでは必ずあかりの年表を最初に見せます。人類の歴史とあかりの関係では人工照明になったのはたったの120年前で、それまでは木材やアルコール、ガスを燃やすことで発生するあかりが100パーセントを占めていました。燃料が燃える光はほぼ暖色で色温度は2000ケルビン程度です。

トーマス エジソンが発明したタングステンランプの色温度は2400ケルビン程度なので燃焼系のあかりを参考にしたと考えられています。温かみのある白熱灯のあかりは見ていると焚火の炎を見ているように安らいだ気持ちになります。それは何千年と続けて燃焼系のあかりを見てきた人々の記憶がDNAに刷り込まれてきた結果だと私は考えています。

ところが1930年代に蛍光灯が普及しだして色温度は一気に5000ケルビンまで上がってしまいました。少し寒色系を感じる白い光の登場です。消費電力量の少ない(電気代の安い)、寿命の長いランプの真っ白い光に公共空間からオフィスの照明、住宅のあかりまでも支配されてしました。1990年代になって蛍光灯でも白熱灯のような3000ケルビンの色温度のランプが出てきましたが、中々普及には至っていないようです。

そして今やLEDランプの登場でランプの色温度は、更に混乱の極みにあります。 賃貸住宅の現状回復工事をしながら思うことは玄関やトイレはもともと白熱灯だったので電球色の蛍光灯やLEDランプを使用していますが、洋室はなぜか昼白色のランプがついています。共用廊下の蛍光灯も昼白色が殆どです。冬は寒々しいです。夕暮れ過ぎて帰宅する人々を迎えるあかりは色温度の低い燃焼系の色のあかりが良いと私は考えます。